■ハンチョウ大槻のUberEats

2022年09月30日

 愛と信頼のパートナー、帝愛グループ。

 その中核を担うのは消費者金融を営む帝愛ファイナンス。

 その帝愛ファイナンスは多くの劣悪債務者たちを抱えている。そしてそんな債務者たちが借金帳消しのため収容されるのが、ここで語られる地下強制労働施設だ。

 ここに落ちた者は借金がなくなるまで外に出ることなどできない......。ただ一つ、ある特例を除いて......!

大槻「クククククッ......、宮本さん」

 ざわ......、ざわ......。

黒服宮本「どうした、大槻?」

大槻「いただけますか......。1日外出券を!」

 ざわざわ、ざわざわ......。

黒服宮本「......わかった、手配しよう」

モブ債務者A「ま、また外出券......!」 モブ債務者B「これで何度目だ!? すげえぇ!」

 地下の強制労働施設に居ながらもチンチロリンで大金を稼ぎ、1日外出券を利用しては外で悠々自適な1日を送る......。

 これはE班トップ、大槻班長の1日外出の記録である......!!

 2020年4月。東京、代々木公園。

 大槻......、解放......!

 並びに大槻の側近である......、沼川、石和も解放......!!

沼川「いやー、久々の外出っすね班長!」

大槻「......」ざわ......。

沼川「どうかしました?」

大槻「......ここは、どこの公園だ?」ざわ、ざわ......。

沼川「どこって......、代々木公園ですよ。見慣れた公園じゃないですか」

大槻「代々木公園......。うん、確かにそうなんだ。だが、何かおかしくはないか?」

沼川「おかしいって、何がですか?」

石和「人がいない......」

沼川「人......?」ざわ......。

 そう言われ辺りを見回す沼川。確認すると確かにいないのだ。大人も子供も、誰一人!

大槻「そう石和の言う通り、人がおらんのだ。まだ昼間だと言うのに......」

沼川「た、確かに......。代々木公園でこの人気の無さは異常ですね......」

 都心の一等地に広がるこの代々木公園......! 普段ならお年寄りから若者まで多くの人が行き交う場所のはずが、これはどういうことだというのか?

 不気味な静けさに恐怖心すら感じていると、突然茂みの中から隠れていたであろう黒服の宮本が姿を現した!!

宮本「なんだお前たち、知らないのか?」

大槻「知らないのかって、これは一体どういうことですか宮本さん」

宮本「今はな、パンデミックなんだ」

 ざわ......、ざわ......。

大槻、沼川「パ、パンデミック!?」

宮本「地下にいるお前たちは知らなかったかもしれないが、地上では新型のウイルスの蔓延していて、非常事態宣言が敷かれているのさ。不要不急の外出は控えるよう国からお達しが出てご覧の有様というわけさ」

石和「へー、地上はそんなことになってたんですね」

沼川「そんなことって、お前今の説明で理解できたのか?」

石和「......」コクリ。

沼川「ほんとかっ!?」

宮本「まあ、そういうわけだから、あまり夜遅くは出歩かない方がいいぞ。どちらにしろ、飲食店は夜営業してないし、酒類も提供してないからな」

大槻「えっ、飲食店が営業してないって、それならワシらは何のためにわざわざ外出券を使ったのか......」

宮本「あー、確かにな。けどまあ、あれだ。折角だからウーバーイーツでも頼めばいいじゃないか」

大槻、沼川「ウ、ウーバーイーツ?」ざわざわ......、ざわざわ......。

 パンデミックに続いて、またしても出てくる未知の単語......! ウーバーイーツを頼むとはどういうことなのか? それ自体が食べ物なのか?

大槻「すみません、宮本さん。ワシらウーバーイーツとやらが何なのか......」

宮本「そうか、お前たちは知らないのか。ウーバーイーツはとどのつまり、出前みたいなもんだ。スマートフォンのアプリから無数にある加盟店に注文することが出来て、指定した場所に持ってきてくれるっていうサービスだよ」

大槻「それは届け場所の指定が公園でも?」

宮本「勿論大丈夫だ。最近お前たち、大きなバッグを背負って自転車に乗っている奴見たことないか?」

 大きなバッグを背負い電動自転車や、スポーツタイプの自転車に乗った人物......! 大槻はここ最近の外出でその存在を幾度となく確認していた!

大槻「やけに印象深かったから見覚えておる。パンダのマークが入ったショッキングピンクの大きなバッグを背負った中年男性が汗だくでママチャリのペダルを漕いでおった......。あれがその、ウーバーイーツ?」

宮本「そのショッキングピンクは別の組織だけど、まあそういうことだ。アプリで注文すると、彼らが代わりにお店に受け取りに行って届けてくれるんだ」

沼川「へー。よくわかんないけど、便利な世の中になってるんですね」

石和「......」

宮本「どうせオレもウーバーで注文しようと思ってたんだ、ついでもお前たちの分も頼んでやるよ」

沼川「おっ、いいですねぇ! 宮本さんは何を頼むんですか?」

宮本「オレか? オレはニコニコ弁当で注文しようと思ってるけど」

大槻「ニコニコ弁当......?」ざわ......。

 自転車で持ってくるということはそれほど遠くない場所にある店に違いないのだろうが、大槻はニコニコ弁当などという店を聞いたことがなかった。果たして代々木公園周辺にそんな弁当屋があっただろうか?

大槻「宮本さん、そのニコニコ弁当っていうのは有名な店なんですか?」

宮本「いや、知らん。アプリがおすすめしてきたから、頼んでみようと思っただけだ」

大槻「そうですか......。ニコニコ弁当......」

 これは極めて大事な一食......! ここでの注文は慎重にならざるを得ない。聞いたこともない店での注文で、冒険することなどできやしないのだ......!

宮本「よし、オレはシャキシャキ青椒肉絲弁当にするぞ!」

大槻(チンジャオロースーか......。よくわからんが、これは違う気がする)ざわ......。

沼川「良いっすねぇ。俺にもメニュー見せてください! チキン南蛮弁当とかありますかね?」

大槻(チキン南蛮......、それも違う......)ざわざわ......。

沼川「あ、すみません。オレより先に、班長決めてください。どうぞ」

大槻「そうか、ワシか。そうだな......」

 沼川からスマートフォンを受け取る大槻。しかしその時大槻は何かはわからないが、大きな違和感のようなものを抱いていた。

大槻「宮本さん、このニコニコ弁当ってお店の所在地はわかるんですか?」

宮本「所在地? 右にある矢印のボタンを押せば出てくるんじゃないかな?」

大槻「矢印......」

 画面上にある矢印のボタンを見つけた大槻はそれをおもむろにタップした。すると確かにその店の住所が現れる。

大槻「東京都渋谷区神山町2-30-1、渋谷区神山町2-30-1、渋谷区神山町2-30-1......」

 記された住所を三度口にする大槻。これは住所を口にすることで大槻メモリーにアクセスし、過去にその場所を歩いた時の記憶を呼び起こしているのだ。

大槻「いや、あの場所に弁当屋なんてなかったはず......」

 大槻の記憶でそこにあったのは、魚笑という名の鮮魚店だ。2年程前に通った時は、店を継いだばかりであろう若夫婦が店を切り盛りしていた。あの若夫婦の溢れる精気を思い出すと、さすがに2年で潰れてしまったとは思い難い。

大槻「あっ!」

 そこで察しの良い大槻はここで気づいてしまった。このニコニコ弁当という店の正体はつまりこういうことだ......。

大槻「この住所にあるのは間違いなく鮮魚店。ここはつまり、魚屋がデリバリー専用で営業している弁当屋と思って間違いないじゃろう!」

石和「おお!!」

大槻「そこまでわかれば話は早い。この店で注文すべき弁当は、青椒肉絲でもチキン南蛮でもない......。ここで選ぶべき最適解は......、魚をメインに使った弁当!!」

宮本「確かにメニューの一番上のおすすめのところが旬の焼き魚弁当になってたな! よし、俺はその焼き魚弁当にするとしよう!」

沼川「さすがは班長、鋭い洞察力! じゃあオレは鰆の西京焼き弁当でお願いします!!」

石和「じゃあオレは、デミハンバーグ弁当で!!」

大槻「......」ポチポチ......。

 その30分後、緑のバッグを背負った配達員が到着しただけで大喜びする一同!

 そして各々弁当を開け、くだらない雑談をしながら公園のベンチで食べ進める。それが食べ終わることには、日もすっかり暮れ始めていた......!

沼川「けど折角外出券使ったのに、お酒が飲めないのは寂しいですねぇ」

宮本「飲めばいいじゃないか」

沼川「けど、飲食店での酒の提供はしてないんですよね?」

宮本「そうだ。だから......」

 そう言ってスマホを差し出す宮本。

宮本「ウーバーイーツを使ってコンビニで酒を注文すればいいのさ!」

沼川「ウーバーイーツ、すげぇ!!」

大槻「しかし、いいんですか宮本さん、外出が自粛で飲食店での酒の提供も出来ないのに、公園で缶ビール飲んだくれるというのは、ちと......」

宮本「ふふふ、それなら大丈夫だ。周りを見てみろ大槻」

 宮本に促され、辺りを見回す大槻......! するとさっきまでひと気のなかった公園内に、いつの間にか飲み物を片手に持ったサラリーマンがちらほら現れ始めた......!

大槻「これは一体どういう......?」

宮本「お店で飲めなくなったからな。集まってくるんだよ。お前たちのようなクズが公園に......」

 そう。気づけば公園は呑兵衛たちの襲来により大宴会場に早変わり......!

 解放感溢れる公園での飲酒はタガが外れ、出会ったばかりの飲み仲間との朝まで泥酔クラスター!!

 そして4人とも、見事に新型ウイルス陽性!! 地下施設に移送後、全員強制隔離!!

 大槻班長、1日外出......!! 次回は......、ない!!

 おわり

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